ピュッと白いものが宙を飛んで,それは黄瀬の鼻面を直撃する。
「ん……?」
突然顔にかかったそれに、黄瀬は一体自分の身に何が起こったのかいう疑問と驚きとを綯い交ぜにした表情を浮かべた。
「赤司っち、なに……?」
バスケ部レギュラーの面々は食堂に集まって、共に昼食をとっていた。キセキの世代の面々と、学食を利用しにきた生徒達。その衆人環視の中で、それを黄瀬の顔にかけたのは赤司だ。
彼は愉悦を孕んだ表情で黄瀬の顔を見遣っている。
「なんで、オレにヨーグルトかけんスか?」
彼の手には学食の購買部で買ったヨーグルトのカップと、添えつけのスプーンが握られていた。赤司はそれを一口食べて、二口目を手にしたスプーンで黄瀬の顔に飛ばしたのだ。
「まずかったから」
黄瀬の問いかけに、赤司はそれが当然だとでも言いたげな顔で答える。
実際、バスケ部の王様である赤司の振る舞いは、全てが当然として認められるようなフシがありはするが。
「食べてみろ、涼太」
「ひど……どういうことすスか! ……ん、これ、変な味……」
顔にかかったそれは黄瀬の通った鼻筋を伝い、唇の付近にどろりと零れてきている。
それをペロリと舌で舐めあげて、黄瀬は顔を顰めた。
「赤司っち、これ、まずい……」
「だろう」
黄瀬の答えに、赤司は満足そうな表情を浮かべた。
「っていうか、なんでまずいからってオレにヨーグルト引っかけんの?」
「これくらいの楽しみがないと、悔しいだろ」
「それって八つ当たりって事? ひど! 赤司っち,ひどいっスよ!」
「そう膨れるな」
黄瀬が非難を口にするのに、赤司は食堂の各テーブルの上に置かれたティッシュボックスを彼に手渡した。つまりはそれで汚れを拭けという事だろう。
「何考えてんスか! もう!」
シュッとティッシュを数枚抜き取り、手にしたそれで黄瀬は顔にかかった液体,白いそれを拭う。
「……涼太、エロいぞ」
「? 何の事スか?」
「無防備過ぎるって言ってるんだ」
きょとんと返す黄瀬に、赤司は何事かを含んだ笑いを向けた。
(2012.9.7 pixiv初出)